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事例2 株式会社三笠書房 取締役営業部長 阪口正夫様インタビュー

システム化が実現した見えないコスト退治

三笠書房は、1933年創業の出版社で、出版界の中でも老舗の一つとして数えられている。同社が得意とする分野も、自己啓発、ビジネス、経済、教養、実用書など多岐にわたり、多くのタイトルを世に送り出している。最近では、70万部を突破して、09年上半期の第二位にランクインした、「脳にいいことだけをやりなさい」(茂木健一郎訳)などは記憶に新しいだろう。そのほか、09年秋、全国的に展開した「知的生き方文庫25周年フェア」は世間の耳目を集めるなど、積極的な出版活動を続けている。

しかし、出版活動に伴って増え続ける約200点にもおよぶ単行本と文庫本の在庫は、常時、確保しておかなければならず、新刊のたびに在庫は増えていく。そこで、出版社の命である「新刊」を生み出すたびに、在庫の問題とどう折り合いをつけるかが課題の一つになっていた。


株式会社 三笠書房
取締役営業部長
阪口 正夫様

同社が、同業他社に先駆けコンピュータ化(オフコン)による商品管理システムを導入したのは1985年に遡(さかのぼ)る。 同社の看板商品「知的生きかた文庫」を創刊し、文庫市場に参入した翌年にあたる。出版業界はもちろん、まだシステム化という発想が希薄な時代の話だ。

そのシステムを導入してから約20年が経過、導入当初は最先端だったシステムも次第に時代にそぐわなくなってきていた。 しかし、文庫だけでも2,200点を超える規模に成長した商品群を考えると切り換えは容易ではなく、新しいシステム導入のタイミングを掴めないでいた。

「書店のニーズなどに応えなければならない問題は頻繁におこりましたが、時間と手間をかけることでその課題をクリアし、何とかオフコンの古いシステムに頑張ってもらっていました」(阪口 取締役営業部長)

そうした中にありながらも、出版取り次ぎ(出版社と書店の間をつなぐ流通業者)からの返品データがPC対応になり、新出版番号がPC対応になるなど、これまでのシステムでは対応しづらくなった「時代の要請」に応えるため、新しいシステムの導入に踏み切らざるを得なくなってきた。

活かしたかった過去の資産と他社での実績

出版業界には、返品、改装、重版…など、商品流通上の特殊な事情が数多くある。新システムには、そうした事情を前提にした発想が求められてくる。加えて、文庫が多い同社の性格上、単行本とは異なる仕分けの考え方も必要とされる。そうした問題点に対応できるシステムはそれほどあるものではない。

「せっかくの投資ですから、これまでも20数年にわたって改良を続け、使い慣れたシステムより、新しく導入するシステムがどれだけ進化したか分かるものでなければなりません。そうした点から見ると、検討したシステムの中には、明らかに遅れているシステムもありました。出版社のやりかたを知らないシステム会社のものは、当然一発アウトでした」(阪口氏)

また、同社で稼働していたそれまでのシステムはこうした問題点はすでに改善されていたため、新しく機能開発に取り組むよりも、これまで使ってきたシステムに蓄積された「資産」をうまく引き継がせていきたいという強い思いもあった。今回導入したシステムは、オフコンの資産がそのままコンバートできる点で、最も評価できるものだったという。

もう一つ重要な要素として、同業他社での導入実績が上げられる。今回のシステムは旧知の出版社がすでに導入し、実績、信頼とも評価できるものだった。とくに、その出版社は取り次ぎに対して強い部分があり、同社が受注に基づいた搬入の流れを作るにあたり、その部分を活用して事業拡大を図れるのではという期待感もあったという。今回の切り換えは「コスト」ではなく「投資」というとらえかたを同社はしているようだ。

「カン」から「データ」へ、大きく変わる商品管理手法

新システムを導入してから3年、同社に大きな変化が表れていた。これまでの「カン」に頼った商品管理が「数字」をベースにした商品管理へと進化することで、さまざまな工程でシステム化の果実を手にしていたのだ。

出版社には改装作業(返品本の表紙を取り替える作業)という独特の出荷作業がある。これは、実際に返本されてからの作業になるため、再配送が後手に回る傾向にある。これが、出荷の遅れやクレーム、ひいては在庫管理など、さまざまなところに影響を与えていた。これを回避するには、「返本」をどれだけ正確に読み切れるかが勝負になってくる。これまでは、熟練営業マンの「カン」に頼った世界だった。今では、あらかじめ返本の数がわかるので、事前に対応ができるようになっているらしい。

「『返本が見える』『注文が見える』ことで作業の流れがスムーズになりました。これらいくつかの『見える化』で物流部門のトータルコストで3人数分の工数を削減することができました。」

同じように、今までのシステムでは、出荷した本が取次で止まったりすることもわからなかったが、流通の状況が見えるようになり、出荷のスピードを格段に上げることができているという。
「大雑把ですが3日くらいは速くなりました。スピードアップというのは、モノが早く入るということだけじゃなく、過剰な在庫を必要としないから過剰な出荷もしないで済んでいます。取次によっては、状況をトレースできるところもあり、それに参加できるようになりました(VANネットワーク)。
書店から入った注文情報をPCに入力することでそこから先につなげることができますから、これができるだけでも前進している」(阪口氏)と感じている。

見えないコストからの「解放」

新システムによる「見える化」は同社の重版計画にも大きな影響を与えている。「営業というのはどうやって本を作るか(この場合は増刷)ということにあります。2刷、3刷がなければ4刷目はない。返本を予想しつつ増刷の判断が迫られるというバクチ的な要素は否めませんでした。しかし、この増刷の判断ができるのが優秀な営業と言われてきました」(阪口氏)

データと(コンピュータにストックできる)過去の実績である程度の予測がつけられるようになったのは、出版社経営という点で考えると大きな進化である。なかでも、取り次ぎに出荷しても書店から大量に返品することもある出版流通の世界では、これまで難しかった市場在庫が把握しやすくなったことは、特筆すべき大きな成果であろう。オフコン時代も過去の実績をストックすることはできたが、データを取り出す手間を考えると、新しいシステムは格段に操作性が向上していると言う。

今回の新システム導入がもたらした成果がもう一つあるという。
「パートさんの電話対応のストレスがなくなったんです。昔は、本の名前を覚えてなくてはいけないとか、その情報が入っているファイルの知識が必要だったり、書店名も同じようなものがいくらでもあって、ここでも『熟練の人』を必要としていました。新しいシステムは、PCを見ながらその場で受け答えが可能になっています」(阪口氏)

見えないコストが大きい業界で、こうした部分の削減ができるという点が、このシステムを導入できたメリットは大きい。「信頼を高めるということには『コスト』がかかる。そうしたことにコストはかけていいと思っています」(阪口氏)

出版業界は未曾有の不況に陥っている。業界独特の流通制度や出版文化にあるコスト構造をいかに効率化していくかが、生き残り戦略を左右すると言っても過言ではない。そうしたなかで、新システムの導入による効率化を実現しながら、「信頼という目に見えないものにコストをかける」と言い切る三笠書房の姿勢は取次、書店などから大きな評価を得ているのだろう。

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